「よし、アルビオールで直接バチカルに乗り込もう!」
…………はい?
唐突に飛び出したルークの突飛な発言に、一同の目が点になる。
何故なら、いままでの話をちゃんと聞いていたのか? と問い詰めたくなるような発言だったから。
□突撃☆バチカル城!□
崩壊しかけていたセントビナーに取り残された人々をシェリダンで借り受けたアルビオール2号機で助け出し、ユリアシティへ誘導して外殻大地に戻ってきたはいいのだが、戻ってきてすぐに目に飛び込んできたのはパダン平原で繰り広げられるマルクトとキムラスカの激しい戦いだった。それを目撃して一番に反応したのはナタリアで、民のことを第一に考える王女である彼女は当然、迅速に停戦を呼びかけるべく行動することを主張。だがエンゲーブ崩落まであまり猶予が無さそうだという事もわかっていた。どちらも迅速に着手すべき問題。そこでジェイドが提案したのが、二手に分かれてそれぞれ問題解決のために動くという案。ジェイドの案に反対する者はなく、それはすんなりと聞き入れられた。
すでにジェイドとティアはエンゲーブ住人の避難誘導のをするために、ノエルの操縦するアルビオール2号機で発ったのでその姿は無い。それ以外の仲間たちは修理すれば使用できると判断されたアルビオール1号機を使うことになった。操縦者はノエルの兄であるギンジ。飛行実験中に1号機ともども墜落事故に遭った彼だったが幸い軽い怪我で済んでいたのだ。その陰にルークの尽力があったのだが、それはまた別の話である。
そして2号機の出発と入れ違いで修理の完了したアルビオール1号機で停戦のための行動を起こすことになり、そのための打ち合わせをしていた所に先のルークの発言である。
「だってさ、なんかもー直接バチカルに乗り込んだ方が早くね?」
「……ルーク。お前なぁ」
今回の戦争はキムラスカが仕掛けたものでマルクトはあくまでも防衛しているだけに過ぎないことから、まず止めるならキムラスカという結論に至った。そしてパダン平原で戦端が開かれているとすればキムラスカの本陣はカイツールにあるだろうとのことで、カイツールへ向かうということで話が纏まりかけていたのだ。
だがルークはそんな行動を取った先に起こる出来事を知っている。知っているからこそ無駄な時間を浪費したくないと思った。ここで話している間にも戦争の被害は出続けているのだから。
けれど今の立場では正直に話した所で理解してもらえないだろう事も判っているから、別にみんなの案を完全否定したい訳じゃないんだと前置きして、できるだけ理路整然に話せるよう口を開いた。
「そりゃあ、カイツールに行って停戦してくれって頼むのも悪くないとは思う。……だけどさ、もし万が一それはできないなんて言われてみろよ。シャレになんねーだろ? それならいっそのこと陛下に直接訴えた方が時間の節約になるじゃんか。ただでさえ時間かけるわけにはいかねぇんだから」
モースがインゴベルト国王にいらない事を吹き込む前にという考えが隅にあるのは否定はしない。既に《前回》と同じタイムスケジュールで物事が進んでいるとは考えてはいないが、先手を打つことができればそれだけでも有利になる。皆にはまだ知らせてはいないが、失敗しても事前にケセドニアのアスターにはルークが内密に話を通しているから、ケセドニアとパダン平原を魔界に降ろせば一時しのぎにはなるだろう。あくまでも最終手段ではあるが。
「ルーク、貴方のいう事にも一理ありますが……。シュレーの丘であなた自身が言っていた事を忘れたんですか?」
「……私は信じたくありませんわ。例えルークの言っていたような預言が存在するのだとしても。お父様やファブレ公爵がルークを殺そうとしていたなんて。……ましてや預言成就のために抹殺しようとするかもしれないなどという事は」
イオンはルークの身を案じ、ナタリアは現状では出ない答えに考えをめぐらせ悶々としている。
「ま、バチカルに行けばそのへんの事はハッキリするだろうさ」
ガイは明確な答えは避けたものの確信していた。キムラスカの上層部は黒だと。でなければ預言に詠まれていたとはいえ、七年にも渡って軟禁されていて世間の情勢どころか常識にすら疎かったルークを、崩落すると判っていた街に親善大使などという大層な肩書きまでつけて送りだす理由が見つからない。
まぁ、キムラスカの上層部はルークが誘拐時に入れ替えられたレプリカであるという事実を知らないのだからいずれ記憶が戻るのではとの期待があったという考え方もできるのだが、任命の時点でのルークは親善大使という役割を果たすに相応しいかと問われれば、ガイの贔屓目に見ても否と言わざるを得なかった。
だがルークの言う預言が存在するならばそんな強引ともとれる決定をしたのにも納得できる。となるとやっぱり黒だよなという考えに戻るのだ。
「ルーク。やっぱりお前はティアたちとエンゲーブに行っていた方が良かったんじゃないか?」
「大丈夫だって、心配しすぎだっつーの。いきなり殺されかけたりはしないだろ、さすがに」
「お前な、そりゃ楽観しすぎだ」
「みゅうぅぅっ、ご主人様死んじゃうですのっ? ミュウはそんなのイヤですのーっ!!」
大きな目に涙を溜めてミュウがルークの胸に飛び込んできた。ルークはその小さな体を難無くキャッチして苦笑する。この小さなチーグルはいつでも素直に自分への好意を示してくれる。ただ、ありがたいのだが時たま大げさすぎてウザいと思ってしまう事もある。それはともかくガイやミュウを安心させるためにルークは口を開いた。
「ま、俺だって死にたくねーし。万が一の時は力いっぱい抵抗するっつーの」
「結局、バチカルに行くってコトでいいの?」
これまで黙っていたアニスが結論を求めた。ルークと合流して幾分か日が経ったので、あからさまに文句をつけてくることは無くなったがそれでもまだわだかまりがあるのだろう。ルークが話題の中心にある時、彼女の口数は明らかに減る。かつてのように接することができない事がつらいが、未だ信用を取り戻せるほどの事を成してはいないのだからしょうがない。
そんな感傷を吹き飛ばそうと、ルークは努めて明るく仲間たちに告げた。
「そうだ! いっそのこと直接城まで乗り付けよーぜ!」
そして彼らは大空へと飛び立ったのだった。
※
アッシュがソレを目撃したのはちょうどバチカルの宿屋をチェックアウトして外に出た時だった。
グランコクマでガイのカースロットの一件があった後、ガイとはしばらく距離をとった方が良いということになり泣く泣くナタリアと別れた。そのあとは主にケセドニアで情報収集をしていたのだが、漆黒の翼経由でどうも戦争開始まで秒読みだという情報を仕入れ、今の自分にはそれを止めるだけの力はないがナタリアがそれを知ればきっと停戦のために動きを見せるだろうと確信。真っ先にバチカルへ向かった。なぜバチカルだったのかは本人にも判らなかったが、虫の知らせというものだったのかもしれない。だからこんな状況に居合わせることができたのだ。きっと。
目撃したソレ——空を飛ぶ音機関に幼き日将来を誓い合った金髪の幼馴染が乗っているだろう事をアッシュは確信し、城へ向かって駆け出した。飛行中に人が居るべきでない上部部分に朱の髪が見えたのには気付かないフリをして。
※
突然現れた正体不明の空飛ぶ音機関——アルビオールを威嚇するためか撃墜させるためか、城の周囲に設置された瞬惨譜業砲が火を噴いている。
「ルゥゥーーーークゥゥゥーーーーッッ! たっ、頼むから危ない真似はしないでくれぇぇぇーーーッ!!」
飛行中のアルビオール。それも外側にしがみ付いているルークにガイは真っ青な顔で懇願する。ガイの懇願ももっともなもので、下手に落ちようものならバチカルの最下層まで真っ逆さま。落ちたらまず命は無い。おまけに瞬惨譜業砲を避けるためアルビオールは自然とアクロバットと呼ぶしかない飛び方になっているので、足場の状態も最悪なのだ。
「そうは言ったってっ、城の前ってアルビオール着陸できるっ、スペースねーじゃんっ」
飛び降りるしか降りる方法ねーって!
強く吹き抜ける風にかき消されないようにルークが叫ぶ。もはや会話というより怒鳴り合いに近い。
「だいたい着陸できてもっ、アルビオールとギンジを抑えられたらっ、後々面倒だろっ」
「それがわかっているならっ、なぜっ、直接乗り込もうなんてことを提案しましたのっ!?」
もしもルークの言うようにキムラスカの意思が預言の成就にあり、ルークを殺すことをよしとしているならば逃亡を防ぐために移動手段であるアルビオールを押さえるということは十分あり得る。だが、それを警戒するなら単純にキムラスカ側へアルビオールの存在を気付かせずにバチカル入りすればいいだけの話なのだ。だからシェリダンを出発してからこっち常々疑問に思っていたことをナタリアは口にした。なぜルークはこの案を異常なくらい強くプッシュしたのだろうかと。
そうして返ってきた答えはと言うと……。
「カッコイイだろっ」
こけっ。
えらく素直で子供らしい主張に、思わずずっこけそうになるガイ。
「カッコイイって、お前なぁ」
カッコイイからといって、演出に命を賭けるような子に育てた覚えは無いゾー☆
でもまぁルークの実年齢は7歳だし、コレはコレで愛らしくてイイかもなぁ……。そんな終わったことを考えるガイの気分はもう親バカのお父さんだ。
一方ナタリアはというと。
「戦争を止めるための使者が空を飛ぶ音機関から颯爽と登場っ! 燃えるシチュエーションですわねっ!」
ノリノリだった。しかも何かが彼女の闘志に火をつけた模様。
「ナタリアも、やっぱそう思うかっ?」
「えぇっ、まさしく王道ですわっ!」
ガシッと組まれる腕。王族二人組、見事に意気投合。
「アハハー。ナタリアまでノリノリだなー」
ガイは乾いた笑いをあげた。内心、王族のセンスって……? と思ったが、王族と言うのは得てして世間知らずで、だが理想主義なところのある人間が多い。だからこう王道とかそういうものに惹かれ易いのだろうと無理やり納得する。
でも正直このノリにはついて行けない。ボケ二人に対してツッコミが一人しか居ないのは結構ツラかった。
カムバーック、アーッシュ!
思わずそう叫んでしまうくらいには。こんな時だけ、天然のクセにツッコミ気質な幼なじみを頼りたくなる都合のいいガイ様だった。
しかしガイは知ることになる。
ボケ——というかノリの良すぎる人間——は二人だけではなかった事を……!
「フハハハハハッ! おいらの操縦するこのアルビオール1号機ッ、落とせるものなら落としてみるがいいッ!!」
熱血野郎がここにも一人。操縦士(兄)は操縦桿を握ると性格が変わる御仁だったらしい。
—— 一方。
「とぉってもアブナイですから、しっかりとトクナガに掴っててくださいねーイオン様v」
「はい、アニス。でも僕の事なら心配はいりませんよ。アニスのほうこそ気をつけてくださいね」
「えへへっ、わかってますよぅv」
艦外でテンション高すぎな会話を繰り広げるバチカル組や、意外と熱血だった操縦士とは対照的に、アニスとイオンは艦内で割と普通に着地準備にいそしんでいたのだった。
