唐突に自らの身に異変を覚えたかの存在は、数年ぶりにその意識を覚醒させた。
「これは――何が起こっている?」
人の時間にして約10年。彼からすれば瞬きするくらいに短い時間ではあったが、気持ちよく寝ていたところを叩き起こされ、少々腹が立っていた。だからすぐさま自分を覚醒させた原因の追求にかかったのだが――
「……第七音素が引き寄せられている…のか?」
発生場所は確か人々が巡礼の目的で訪れる地だったと記憶していた。自分と契約者たる少女にとっての因縁の地。そこから彼へ影響を及ぼすほどの吸引力が発せられているのだ。しかも明らかに人為的なものである上に、引力は段々と強くなってきていて、このペースで際限なく強くなるなら不味い事になる。そんな彼の推測は悲しいかな的中していた。急に強くなる引力。
「――ッ! 直接介入する暇も与えてくれないのかよっ!?」
笑い事では済まされないほど強まった力に引っ張られないようにするのが精一杯。思わず威厳もへったくれも無い情けない声が漏れ出る。意識の核たる部分を留まらせることはできているのだが、それで精一杯。自らが引力の発生源をどうこうする余裕など無い。
「……仕方ない。あんまり気は進まねーけど――」
自分の力を狙う者に碌な人間がいない――無理やり手に入れようとする者ならなおさらの事だ――と知っていた彼は、かつて自分を助けてくれた者たちに届くことを願って自らを構成しているものの一部を地上へと降ろしたのだった。