はばきくんのぎもん。

とある日の休み時間。
珍しく教室に顔を出し、机に突っ伏して寝ていた皆守の耳に、聞き覚えのありすぎる声が届いた。

「――というわけで、甲ちゃん。聞いてくれーっ」

なにが「というわけ」なのかは知らないが、葉佩が自己完結は今に始まったことではないし、その上で皆守に話しかけてくるのはまぁいつものこと。問題があるとすればかなりの高確率で面倒くさい騒ぎに巻き込まれる事。

そんな訳でカレーとアロマと平穏な時間を愛する皆守は、友人よりも自らの平穏を選んだ。

「あぁ、ダリぃ」
「そんな!? いきなり無視モード!?」
「悪ぃな九ちゃん。俺はこれからカレー食い倒しツアーに参加する夢を見るんで忙しいんだ。話があるならまた次回な」
「そんな……甲ちゃん酷いよっ。そんなミエミエの言い訳で話聞いてくれないなんてっ」

大仰によよよ……と泣き崩れる九龍。

「……俺……俺っ、傷心のあまり思わず学内で力いっぱい長槍振り回しちゃうぞっ!?」

言いつつ、いつの間にか何処かから取り出した長槍をチャキとかまえている。実行準備は万端だ。

注:いい子はマネしちゃいけません。

「って、その程度の事でンな物騒な事件を起こすなっ! お前はただでさえ《生徒会》に目ェつけられてんだぞっ!?
これ以上面倒ごと起こすなっ! むしろ俺を巻き込むなっ!!」
「その程度……? 俺と甲ちゃんの友情ってそんなものだったのかっ!? 親しい友と書いて親友だろっ!?」
「はいはい、俺とお前の友情はそんなモンだったんだ。そういう訳だから後は俺じゃなくて八千穂と仲良く――っ」

仲良くしてろよ。と席を立ちいざ教室を出ようとしたところで葉佩にしがみつかれた。

「こーうーちゃーんーっ、おーねーがーいーだぁ~っ」
「だぁぁっ、しがみつくなっ!」
「じゃ、甲ちゃん聞いてくれる?」
「わかったわかった! 聞いてやるから離れろっ!」

誰か俺の平穏を返してくれ……という力ない呟きを教室にいたクラスメートたちは聞いたとか聞かなかったとか。

「で、九ちゃん。何を聞いて欲しかったんだ?」
「――この学校のツッコミ所について」
「……あー、なんか急に保健室のベッドが恋しくなってきた」
「こぉーうーちゃーん~~っ」

お前のくだらない話に付き合ってられるか……と言い掛けた皆守は、ふと背中に異物感がある事に気がついた。いや、気がついてしまった…というべきか。とてつもなく嫌な予感がする。

「なァ、九ちゃん。俺の背に当ててるモノは何だ……?」
「ん、食神の魂」

食神の魂とはステンレス包丁とオリハルコンを調合して作られた代物で、現在皆守の背にあてられているものは、記憶が確かならば遺跡でここ何日か何体もの化人をやすやすと葬っていたのと同じ物ではなかろうか?

「……オーケーわかった。話を聞いてやるから、まずその物騒な物をしまってくれ……」

――一分後。

「まー、まず疑問なのはさぁ、下校の鐘が鳴ったら校舎内から即退去ってヤツー?」
「…それの何処がおかしいんだ?」
「外に出るのが1分くらい遅れたぐらいで銃口向けられてみろよー。絶っっ対この学校おかしいっ!! っつー感想以外は頭に浮かんでこなくなるから!!」
「まァ、あの時はさすがにやりすぎだとは思ったが……」
「だろだろー? まさか俺も1分遅れた程度で殺されかけるなんて思わなかったよー」

さすがに校内まで銃火器を持ち込む訳にもいかないと思ってたから、甲ちゃんとまりやんが来てくれなかったら全然抵抗できずにやられてたろーなぁ。と独り言を呟く親友に対して、コイツもツッコミ所満載だよなァと思ったのだがココで正直にそれを述べるとさらに面倒ごとが起こりそうなので言わないでおく。

そして噂をすれば何とやら。

「――葉佩ドノはやはり自分の事を許してくださっていた訳では無かったでありマスカ……」

先日、葉佩に銃口を向けていた本人――墨木が教室の隅で、どんよりとした影を背負ってうずくまっていた。

「……って、砲ちゃんいつの間にッ!?」
「……外に出るのが――の辺りからでアリマス。葉佩ドノに…用事が……」

あまりのタイミングの悪さに、もしかして俺って日頃の行いが悪い? と思わざるを得ない葉佩だったが、皆守あたりがこれを聞いたなら自覚がなかったのかと呆れられるに違いなかった。

「えーっと……甲ちゃんどーしよ……?」
「俺に振るなよ……」

しばし続く沈黙。
が、葉佩がとある事に気がついた。

「砲ちゃんっ、落ち込んじゃ駄目だッ!!」
「下手ななぐさめなど要らないのでアリマス……」
「違う違う、砲ちゃん。よくよく思い出してみ」
「思い出す……で、ありマスカ……?」
「そもそも――だ。砲ちゃんがあんな暴挙に出たのはファントムのせいだろっ?」
「ま、まァ、ファントムドノの言葉がきっかけであった事は否定しないでありマスガ……」
「つーか、あんな変人仮面野郎に殿なんて付けんな!」
「はっ、スミマセンでアリマスッ」
「……そういやファントムのヤツ、今まで影ながら事件の引き金引いてたっぽいよなぁ……他の奴らからの情報とかから考えるかぎり……」

墨木の件はファントムが焚きつけたということがハッキリしているし、その前の真里野の件に関しても戦闘後にファントム本人がネタ晴らししていた。さらにその前の肥後の時も「お面の人が~」なんて証言があったような気がするので少なからず関わっているのは間違いない。だいたい顔の半分以上を覆う鳥面の仮面に黒マント、片手には長い爪のような武器――なんて格好をしている時点で、ツッコミどころ満載だ。

「――はッ!? つまり、この学校のツッコミ所の半分はファントムのせいかッ!」
「……なんでそうなるんだ?」
「今決めた! 俺が決めたッ! 文句は言わせないッ!!
この学校の諸悪の根源でツッコミどころなのはファントムだッ!!!」
「おおっ、さすが隊長ッ! 文句のつけようが無いほどの断言でアリマスッ!!」

「……もう、どこにツッコミ入れたら良いのかもわかんねェよ……」

ちなみにこの発言を熱狂的なファントム同盟構成員が聞きつけたせいで、葉佩vsファントム同盟の激しい戦いが勃発したのだがそれは別の話……だったり。