まろみる作品見本

最初ウチが、目ぇ見えたときは、お母さんと兄弟がおったと。飼い主さんはブリーダーとかいう人で、ウチは商品にならんち言われた。
ウチ、片目が見えんとよ。潰れとったと。やけん商品にならんち言われた。
ロシアンブルーとかいう品種なんやけど障害があるけん。売り物にならんち、言われて。
お母ちゃんに引き取られたんや。
お母ちゃん、年でなぁ。引き取ってくれたんはいいんやけど、すぐ入院っていうもんして、ウチは一人になった。
一人になったウチを引き取ってくれたんはおにぃやん。あまりウチたち猫んこと好きやなくて、ウチをかわいがってはくれんかったわぁ。
お母ちゃん、ウチさみしいと。
誰かウチを必要としてくれる人、おらんとやか。そんな人来てくれんやか。
おにぃやんとはどんくらい一緒におったやろか。おにぃやん、施設とか言うんに入らないかんくなってな。
ウチはまた、違う人んとこ行かないかんとやね。お母ちゃん。

次は、お父ちゃん。
お父ちゃんはウチをかわいがってくれた。そりぁもう、大事にしてくれたん。
ウチ、お父ちゃんが好きやわ。世界でいっとう好き。でもな、そんなお父ちゃんとも、ウチ離れることになったん。

それはまだ春ち呼ぶんは早い、寒い日やったとウチは思うと。

(……どうしよう、うちではもう飼えなくて……
仔猫じゃないから貰い手が……実は市営団地に引っ越しを……)
(うちで引き取りましょうか……? うち、多頭飼いしてますから、大丈夫です……)

そんな会話があったらしいん、ウチはそんなん、よう知らんけど。
もうウチを飼えんくなったお父ちゃん、ウチを引き取ってもらうことにしたらしいと。

お父ちゃんがウチをゲージに入れる。ちっくん、しにいくん?ウチ、あそこは嫌やわ。
臭うんよ。
怖いと思う、その気持ちが。
臭いで残るん。
お父ちゃんには臭わんのやろか。
臭わん方がええやろなぁ、お父ちゃん、怖がりの泣き虫やもん。
いーっつもテレビ見て泣いとる。そんなお父ちゃんをウチが慰めるん。ウチがここにおるよって。
お父ちゃんは悲しい話でも、ええ話しでも泣くん。
るーちゃん、るーちゃん。ええ話やなぁ。
そう、笑いながら、ええ話でも泣くん。幸せそうで、ウチはそんなお父ちゃんが大好きやった。
ウチをママに預けたお父ちゃん。
トライアル、って言うたけど、ホントは最初からウチを渡すつもりやったん。
ウチ嫌やったん。
新しいお家。数匹の先住猫。
みんな、みんな嫌やったん。ウチは最初の夜、ゲージから出らんと威嚇し続けた。
あんたら嫌いや。
あんたら好かんわって。

そして結局な、ウチ、パパとママに引き取られてん。
ウチの家。
それは最後のそして「安息の地」になった。
パパとママ、そしてお姉ちゃん。3人が迎えてくれた。
名前は、まろみる。
「円明」ち書くんて。る―ちゃんて呼ばれとったけん、まろみるの「る―」。結局、まろちゃんて呼ばれたけどな。

お父ちゃん、
お父ちゃん、
ウチはもしかすると思っとったより、ええ一生送るんかもしれん。
最後の飼い主さん……パパとママは抱っこしてくれるん。
お姉ちゃんは火傷するからっていつも、ウチをソファにぽん! と投げるん。ウチ、美味しそうな匂いするとたまらんくなってガスレンジに乗ろうとしてしまうと。
そんたび、お姉ちゃんはウチをソファにぽんと投げるん。

もう最後の数日。
ウチは本当に苦しんだ。
もういいよ、もういいよ。頑張らんでいいけん。楽になっていいんよ。そう言って撫でてくれるん。
そん手がすごく優しいと。
すごぃ優しい手でウチのこと撫でてくれるん。
ウチ、そん手が好きなん。
パパの少し節だった指。
ママの柔らかな指。
ウチ、二人のそん手が好き。
パパとママ、今はお父ちゃんより好きやき。
お父ちゃんごめん。ウチ、お父ちゃんより好きな人ができてしもうた。ウチ、パパとママ、そしておねぇちゃんが好きや。
ウチを撫でてくれる指。
抱っこされたときに、聞こえる心臓の音が好きや。おしっこも何回か漏らした。けど、怒られたりせんかった。
気持ち悪かったねぇ。すぐ取り替えようね。そう言って、ペットシーツとタオル、取り替えてくれるん。
お父ちゃん、ごめんなぁ。ウチはパパとママが好き。
だから頑張る。
頑張らんでええち言われたけど、ウチ、最後の最後まで虹の橋は渡らんけん。渡る気なんかないけんね。